【図解】台風の進路はなぜ日本列島を横断するように曲がるのか?気象予報士が仕組みを徹底解説
- sinsirokeibi
- 10月10日
- 読了時間: 10分
台風22号、23号が立て続けに発生しました。毎日その進路予想を欠かさずチェックしている最近です。ところで台風の進路は、途中まで北上していたのに、日本列島付近に近づいたタイミングで急に東の方へ変わりますよね。
皆さんはこの、台風の進路が日本付近でカーブする理由をご存じですか?実は台風は自力で動けず、主に「太平洋高気圧」と「偏西風」という2つの大きな風の流れに影響されて進路が決まります。この記事ではその仕組みを図解で徹底解説します。

1. 台風の進路が曲がるのは2つの大きな風が原因
夏の終わりから秋にかけて、日本に接近・上陸する台風。天気予報を見ていると、まるで意志を持っているかのように、南の海上から放物線を描いて日本列島を横断する進路をとることが多いですよね。なぜ台風はまっすぐ進まず、きれいにカーブするのでしょうか。
その答えは、台風を動かす「2つの巨大な風の流れ」にあります。台風は、この目には見えない大きな風のレールに乗って進路を変えているのです。この記事では、その複雑なメカニズムを一つひとつ丁寧に解き明かしていきます。
1.1 台風は自力で動いているわけではない
まず理解すべき最も重要なポイントは、台風は自動車や飛行機のように自らの力で進んでいるわけではない、ということです。台風の正体は、巨大な「空気の渦」。それ自体に推進力はなく、周りにある空気の流れ、つまり「風」に流されて移動しています。
川に浮かんだ木の葉が、自分の力ではなく川の流れによって運ばれていく様子を想像すると分かりやすいでしょう。台風にとっての川の流れが、地球規模で吹いている巨大な風なのです。この台風を流す風のことを専門用語で「指向流(しこうりゅう)」と呼びます。
台風の進路に影響を与える主な指向流は、以下の3つです。特に日本付近で進路を大きく曲げる原因となるのが、太平洋高気圧の周りの風と偏西風です。
風の種類 | 主な役割 | 影響を受ける場所 |
貿易風 | 台風を西向きに運ぶ | 日本の南の海上(低緯度地域) |
太平洋高気圧の縁を吹く風 | 台風を北向きに押し上げる | 日本の南〜南東海上 |
偏西風 | 台風を東向きに加速させる | 日本上空(中緯度地域) |
次の章からは、これらの風がどのように作用し、台風の進路を複雑に変化させていくのか、その仕組みを発生場所から順を追って詳しく見ていきましょう。
2. 台風を動かす基本的な仕組みと要因
台風は巨大な渦ですが、実は自力で長距離を移動する力はほとんどありません。台風の進路は、地球規模で吹いている2つの大きな風の流れと、地球の自転が生み出す「見かけ上の力」によって決まります。まずは、台風がどのようにして動き出すのか、その基本的なメカニズムを解き明かしていきましょう。
2.1 発生直後に西へ進むのは貿易風の影響
台風は、日本の南に広がる熱帯の海上で発生します。この赤道に近い海域では、一年を通して東から西へと吹く「貿易風(ぼうえきふう)」という安定した風が吹いています。台風は、発生した場所で常に吹いているこの『貿易風』という東風に流されることで、まずは西へ、あるいは北西へと進んでいきます。
生まれたばかりの赤ちゃんが親に手を引かれて歩き出すように、台風も最初は貿易風という大きな流れに身を任せて移動を開始するのです。
2.2 北上を始めるきっかけとなるコリオリの力
貿易風に流されて西へ進んでいた台風は、ある地点から徐々に北へとカーブし始めます。この進路を曲げるきっかけとなるのが、地球の自転によって生じる「コリオリの力(ちから)」です。
コリオリの力は、北半球では動く物体の進行方向に対して「右向き」に働きます。そのため、西へ進む台風は、このコリオリの力によって常に右側、つまり北向きへと少しずつ押し流され続けることになります。この力が積み重なることで、台風の進路はゆっくりと北寄りに変わっていくのです。
ちなみに、台風が反時計回りの渦を巻くのも、このコリオリの力が原因です。地球の自転がなければ、台風の渦も進路のカーブも生まれません。
コリオリの力と渦の向き | ||
地域 | コリオリの力が働く向き | 低気圧の渦の向き |
北半球 | 進行方向に対して右向き | 反時計回り |
南半球 | 進行方向に対して左向き | 時計回り |
3. 台風の進路が日本列島付近で大きく曲がる理由
熱帯の海で生まれた台風が、まっすぐ進まずに日本列島付近で大きくカーブを描くのは、主に2つの巨大な空気の流れ、「太平洋高気圧」と「偏西風」が大きく関係しています。台風は自らの力で進路を決めているのではなく、これらの風に流されることで、その特徴的な放物線を描くような進路をとるのです。
3.1 夏の壁となる太平洋高気圧のヘリを進む
日本の夏を支配する蒸し暑い空気の塊、それが「太平洋高気圧(小笠原高気圧)」です。この高気圧は、台風にとっては乗り越えられない巨大な壁のような存在です。
高気圧の中心からは、時計回りに風が吹き出しています。南の海上から北上してくる台風は、この太平洋高気圧の勢力圏にぶつかると、その中に入り込むことができず、行く手を阻まれます。その結果、台風は高気圧の西側の縁(ヘリ)に沿って、吹き出す風に押されるようにして北へと進路を変えるのです。
3.2 日本上空で待ち受ける偏西風というジェット気流
太平洋高気圧の縁をなぞるように北上してきた台風は、日本列島が位置する中緯度帯に到達します。すると、今度は上空で待ち構えている「偏西風」という西から東へ吹く非常に強い風の流れに捕捉されます。
偏西風はジェット気流の一種で、一年を通して地球を西から東へと駆け巡っています。台風がこの偏西風のベルトコンベアのような流れに乗ることで、進路を急激に東向きに変え、日本列島を横断またはかすめるようなコースをとるのです。この進路を東向きに変える地点を「転向点」と呼びます。
3.2.1 偏西風に乗るとスピードが上がるのはなぜか
秋の台風情報で「台風が速度を上げて接近中」という解説を聞いたことはないでしょうか。これは、台風が偏西風に乗ったことで起こる現象です。
それまで比較的ゆっくりと移動していた台風が、時速50kmを超えるような猛スピードになるのは、偏西風という強力な追い風を受けるからです。イメージとしては、流れの緩やかな川から急流に合流するようなものです。台風自身の風の力に、偏西風の流される力が加わることで、移動速度が格段にアップするのです。
台風の移動速度の変化(目安) | ||
状況 | 影響を与える主な風 | 移動速度 |
南海上(北緯20度付近) | 貿易風・高気圧の縁の風 | 時速15km~20km程度(自転車並み) |
日本付近(北緯30度以降) | 偏西風 | 時速50km以上(自動車並み)になることも |
この急な加速により、台風の接近から通過までの時間が短くなるため、早めの備えがより一層重要になります。
4. 季節によって台風の進路が変わるメカニズム
台風の進路は一年中同じというわけではありません。特に夏と秋とでは、その典型的なコースが大きく異なります。この季節による進路の違いを生み出す主な要因は、夏の主役である「太平洋高気圧」と、上空の強い西風「偏西風」の位置と勢力の変化にあります。
4.1 夏と秋で太平洋高気圧の勢力が違う
台風の進路を語る上で欠かせないのが、日本の夏を覆う太平洋高気圧の存在です。この高気圧は、台風にとって乗り越えられない「壁」のような役割を果たします。
夏(7月~8月頃)は、太平洋高気圧が最も勢力を強め、日本列島をすっぽりと覆いかぶさるように張り出します。そのため、南の海上で発生した台風は、この強力な高気圧の壁に阻まれ、ヘリをなぞるように西へ進むか、日本の南の海上を大きく迂回するコースをたどることが多くなります。結果として、日本へ直接上陸するケースは比較的少なくなります。
一方、秋(9月~10月頃)になると、大陸からの涼しい空気の影響で太平洋高気圧の勢力が弱まり、日本の南東海上へと後退していきます。これにより、日本列島を覆っていた「壁」がなくなり、台風が北上してくるための「通り道」が開かれるのです。
季節 | 太平洋高気圧の勢力と位置 | 典型的な台風の進路 |
夏(7月~8月) | 勢力が非常に強く、日本列島を広く覆う。 | 高気圧のヘリを通り、沖縄から中国大陸・朝鮮半島へ向かうか、日本の南海上を大きく迂回する。 |
秋(9月~10月) | 勢力が弱まり、日本の南東海上へ後退する。 | 日本列島に接近・上陸し、列島を縦断・横断するコースをとりやすくなる。 |
4.2 秋の台風が日本列島を横断しやすいのはなぜか
秋になると台風が日本列島を横断するような進路をとりやすくなるのは、太平洋高気圧の後退に加え、もう一つの重要な風「偏西風」が関係しています。
夏の間、日本のはるか北を流れていた偏西風は、秋になると日本列島の上空まで南下してきます。太平洋高気圧の勢力が弱まってできた「通り道」を北上してきた台風は、ちょうど日本付近でこの南下してきた偏西風にぶつかります。
台風は偏西風の流れに捕捉されると、まるでベルトコンベアに乗せられたかのように、西から東へと一気に流されることになります。この結果、台風は速度を急激に上げながら東寄りに進路を変え、日本列島を横断するような典型的なコースをたどるのです。秋の台風がスピードを上げて接近し、あっという間に通過していくのはこのためです。
5. 台風の進路予報の仕組みと見方
天気予報で目にする台風情報。刻一刻と変わる進路予報は、私たちの安全な暮らしを守るために欠かせない情報です。では、この台風の進路は一体どのように予測されているのでしょうか。ここでは、台風の進路予報が作られる仕組みと、予報円の正しい見方について解説します。
5.1 スーパーコンピュータによるシミュレーション
台風の進路予報の心臓部となっているのが、気象庁が運用するスーパーコンピュータです。このコンピュータは、地球全体の大気の状態を再現した「数値予報モデル」というプログラムを使い、膨大な計算を行っています。
まず、気象衛星「ひまわり」や世界中の観測地点から集められた気圧、気温、風、水蒸気量などの最新の観測データをインプットします。そして、物理学の方程式に基づいて、数時間後、数日後の大気の動きや台風の中心位置をシミュレーションするのです。この計算結果が、私たちが目にする進路予報の基礎となります。
予測の精度を高めるため、初期値をわずかに変えた複数のシミュレーション(アンサンブル予報)を同時に行い、その結果のばらつきを見ることで、予報の確からしさやブレ幅も評価しています。
5.2 予報円は台風の進路のブレ幅を示す
台風情報で最も重要なのが「予報円」です。しかし、この予報円の意味を誤解している方も少なくありません。ここで正しい見方を確認しておきましょう。
予報円とは、予報時刻に台風の中心が70%の確率で到達すると予測される範囲を示した円です。時間が先になるほど円が大きくなるのは、台風が発達するからではなく、予測の不確実性が増し、進路のブレ幅が大きくなることを意味しています。
つまり、予報円は台風の大きさや暴風域の広さを示すものではありません。台風の中心が円の縁を通る可能性も、円から外れる可能性(30%)も十分にあります。予報円に加えて、台風の大きさを示す「暴風域」や「強風域」を合わせて確認することが重要です。
台風情報で使われる円と線の意味 | ||
種類 | 色・線 | 意味 |
予報円 | 白い破線の円 | 予報時刻に台風の中心が70%の確率で入る範囲。進路のブレ幅を示す。 |
暴風域 | 赤い円 | 平均風速25m/s以上の非常に激しい風が吹いている、または吹く可能性のある範囲。 |
強風域 | 黄色い円 | 平均風速15m/s以上の強い風が吹いている、または吹く可能性のある範囲。 |
暴風警戒域 | 予報円の周りの赤い線 | 台風の中心が予報円内に進んだ場合に、暴風域に入るおそれのある範囲。 |
台風が接近している際は、予報円の中心の線だけを見るのではなく、自分の住む地域が予報円や暴風警戒域に入っていないかを確認し、早めの対策を心がけることが大切です。
6. まとめ
台風は自力で動けず、周囲の風に流されます。日本付近で大きく曲がるのは、太平洋高気圧のヘリを進み、上空の強い西風「偏西風」に乗るためです。この2つの風の流れが、台風を日本列島へ導く主な理由です。



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