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【専門家が徹底解説】地震予知は可能か?地震のメカニズムと科学の最前線はどこまで解明されているか

  • sinsirokeibi
  • 9月25日
  • 読了時間: 15分
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地震予知は現状不可能です。本記事では、なぜ予知ができないのかを地震のメカニズムから解説。科学でどこまで解明されているかの最前線と、予知に頼らず命を守るための具体的な防災対策まで、専門家の知見を基にわかりやすくお伝えします。


1. 地震予知は可能かという問いへの専門家の回答

「明日、東京で大地震が起こる」といった具体的な地震予知は、多くの人が関心を寄せるテーマです。しかし、結論から言うと、現在の科学技術をもってしても、地震が発生する日時、場所、規模を正確に特定する、いわゆる「地震予知」は実現できていません。これは、気象庁をはじめとする多くの研究機関や専門家の一致した見解です。この章では、なぜ地震予知が不可能なのか、そしてその事実と私たちはどう向き合うべきかについて解説します。


1.1 現状では「いつどこで」という予知は不可能

地震は、地下深くにあるプレートや活断層が急激にずれることで発生する極めて複雑な自然現象です。天気予報のように、大気の状態を観測して未来の天候を高精度で予測するのとはわけが違います。地震予知が不可能とされる主な理由は、地下の岩盤破壊という現象の直接観測が困難であり、地震発生に至るプロセスに未解明な点が多く残されているためです。

ここで、「地震予知」と似た言葉である「地震予測」との違いを理解しておくことが重要です。両者は意味が大きく異なります。

用語

内容

現状の達成度

地震予知

地震の発生時期、場所、規模(マグニチュード)を、高い精度で事前に特定すること。

不可能

地震予測

ある特定の地域で、今後数十年といった長期的な期間内に、どの程度の規模の地震が、どのくらいの確率で発生するかを評価すること。

限定的に可能

政府の地震調査研究推進本部が公表している「今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」の地図などは、この「地震予測」にあたります。これは過去の地震データや地殻変動の観測に基づいた評価ですが、具体的な発生日時を知らせるものではないことを明確に認識しておく必要があります。


1.2 予知できないからこそ防災対策が重要になる

「地震予知はできない」という現実は、私たちに重要なメッセージを伝えています。それは、不確実な予知情報に期待したり、惑わされたりするのではなく、「地震はいつでも、どこでも起こりうる」という前提に立って、日頃から備えをしておくことの重要性です。

地震による被害を最小限に抑える「減災」という考え方が、今や防災の主流となっています。予知ができない以上、私たちにできる唯一かつ最も効果的な対策は、地震が発生したときに自分自身と大切な人の命を守るための準備を、平時のうちから着実に進めておくことです。具体的には、家具の固定や食料・水の備蓄、避難経路の確認などが挙げられます。予知に頼らない防災こそが、巨大地震から生き抜くための鍵となるのです。


2. これだけは知っておきたい地震のメカニズム

地震予知の可能性を探る前に、まずは地震がなぜ、どのようにして発生するのか、その基本的なメカニズムを理解することが不可欠です。地球の表面は「プレート」と呼ばれる十数枚の硬い岩盤で覆われており、このプレートが絶えず動いていることが、地震を引き起こす根本的な原因となっています。


2.1 日本周辺の4つのプレートと地震活動

日本が世界有数の地震大国である理由は、その地理的な位置にあります。日本列島は「太平洋プレート」「フィリピン海プレート」「北米プレート」「ユーラシアプレート」という4つものプレートが複雑に重なり合う、世界でも稀な場所に位置しています。これらのプレートはそれぞれ異なる方向に年間数センチメートルの速さで移動しており、その境界部ではプレート同士が押し合ったり、一方がもう一方の下に沈み込んだりしています。

この動きによってプレートの境界には膨大なひずみのエネルギーが蓄積されます。このひずみが限界に達したとき、岩盤が破壊されて急激にずれ動く現象が「地震」です。地震は発生する場所によって、大きく2つのタイプに分類されます。

  • 海溝型地震(プレート境界型地震)


    海のプレートが陸のプレートの下に沈み込む場所(海溝)で発生する地震です。陸のプレートが引きずり込まれ、限界に達して元に戻ろうと跳ね上がることで巨大な地震となります。津波を伴うことが多く、広い範囲に甚大な被害をもたらす可能性があります。東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震や、発生が懸念される南海トラフ地震がこのタイプです。

  • 内陸型地震(直下型地震)


    陸のプレート内部にある「活断層」がずれることによって発生する地震です。海溝型地震に比べて規模(マグニチュード)は小さい傾向にありますが、震源が浅く、都市の直下で発生することが多いため、局所的に激しい揺れを引き起こし、建物の倒壊など大きな被害につながることがあります。阪神・淡路大震災や熊本地震がこのタイプにあたります。


2.2 地震の規模を示すマグニチュードと揺れの強さを示す震度の違い

地震のニュースで必ず耳にする「マグニチュード」と「震度」。この2つはよく混同されがちですが、意味は全く異なります。マグニチュードは地震そのもののエネルギーの大きさ(規模)を示す指標であり、震度はある場所がどれだけ揺れたかという揺れの強さを示す指標です。両者の違いを正しく理解しておくことが重要です。

例えば、大きな電球(マグニチュードが大きい)でも、遠くから見れば暗く感じ(震度が小さい)、小さな電球(マグニチュードが小さい)でも、目の前で見れば眩しく感じる(震度が大きい)ように、マグニチュードと震度の関係は震源からの距離や地盤の性質に大きく左右されます。



マグニチュードと震度の違い

指標

意味

特徴

マグニチュード(M)

地震そのもののエネルギーの大きさ(規模)

  • 1つの地震に対して値は1つだけ

  • Mが1増えるとエネルギーは約32倍、2増えると約1000倍になる

  • 単位はなく、M7.0のように表記される

震度

ある場所での揺れの強さ

  • 震源からの距離や地盤の固さによって場所ごとに異なる

  • 日本では気象庁が定める「気象庁震度階級」で0, 1, 2, 3, 4, 5弱, 5強, 6弱, 6強, 7の10段階で表される

  • 同じ地震でも、震源に近い場所や地盤の軟らかい場所では震度が大きくなる


3. 科学でどこまで解明されているか 地震予測のリアルな実力

現在の地震学では、残念ながら「いつ、どこで、どれくらいの規模の地震が起こるか」を正確に特定する「地震予知」は実現できていません。しかし、科学技術の進歩により、過去のデータや地殻変動の観測に基づいた「地震予測」は一定のレベルまで可能になっています。ここでは、現代科学が到達した地震予測のリアルな実力と、その限界について詳しく解説します。


3.1 「南海トラフ地震臨時情報」が意味するもの

気象庁が発表する「南海トラフ地震臨時情報」は、従来の確定的な予知情報とは全く異なるものです。これは、南海トラフ沿いの想定震源域で、巨大地震との関連性が否定できない異常な現象が観測された場合に発表されます。巨大地震の発生可能性が平常時よりも相対的に高まっていることを知らせ、防災対応を促すための情報と理解することが重要です。

この情報には、観測された現象に応じて「巨大地震注意」や「巨大地震警戒」といったキーワードが付記されます。「巨大地震警戒」が発表された場合は、後発地震に備えて、事前避難対象地域では1週間の避難が呼びかけられます。ただし、この情報が発表されたからといって、必ずしも巨大地震が発生するわけではありません。あくまでも「可能性の高まり」に注意を喚起するものであり、空振りに終わることも十分にあり得ます。


3.2 これが限界 地震予測で現在わかることとわからないこと

地震予測研究は日々進歩していますが、現時点では明確な限界があります。科学的に「わかること」と「わからないこと」を正しく理解し、過度な期待や誤解を避けることが、適切な防災行動につながります。現在の地震予測技術の実力を以下の表にまとめました。

項目

わかること(予測がある程度可能なこと)

わからないこと(予測が困難なこと)

発生時期

特定の地域における、今後数十年といった長期的な発生確率(例:南海トラフ地震の30年以内の発生確率が70~80%)

「明日」「1週間以内」といった短期的な発生日時の特定

発生場所

地震が発生しやすいプレート境界や活断層など、おおよその震源域

広大な震源域の中の、破壊が開始する正確な位置(震源)

地震の規模

その震源域で起こりうる最大クラスの規模(マグニチュード)の想定

次に起こる地震の正確なマグニチュード

発生後の推移

本震発生後、同程度の規模の余震が起こる確率評価(余震確率)

次にどこで、どの規模の余震が具体的にいつ発生するか

このように、現在の地震予測は確率論的なアプローチが主流であり、「いつ・どこで」をピンポイントで示す確定的な予知とは全く異なるのが実情です。


3.3 首都直下地震の被害想定はどのように算出されるか

国や自治体が発表する「首都直下地震の死者数XX人」といった被害想定は、多くの人々にとって衝撃的な数字です。この数字は決して当てずっぽうではなく、科学的なデータとシミュレーションに基づいて算出されています。

被害想定の算出は、主に以下の3つのステップで行われます。

  1. 震源モデルの設定


    まず、過去の地震履歴やプレート構造の研究に基づき、首都圏で発生しうる地震のタイプを複数想定します。例えば、「都心南部直下地震 マグニチュード7.3」のように、発生場所、規模、メカニズムを具体的に設定した震源モデルを作成します。

  2. 地震動(揺れ)の計算


    次に、設定した震源モデルからどのような揺れが発生するかを計算します。この際、地盤の硬さや地形といった各地域の特性を考慮し、場所ごとの詳細な震度分布をシミュレーションします。

  3. 被害の推計


    最後に、算出された震度分布に基づき、各地域での被害を推計します。建物の構造(木造、鉄骨など)や建築年代ごとの倒壊率、人口密度、時間帯(昼間・夜間)などを考慮して、建物の全壊棟数、火災の発生・延焼件数、死者・負傷者数、帰宅困難者数などを統計的に算出します。

このように、被害想定は科学的根拠に基づいた緻密なシミュレーションの結果であり、私たちが防災計画を立てる上で極めて重要な基礎情報となります。


4. 未来の地震予知につながるかもしれない最新研究

現在の科学技術では「いつ、どこで、どのくらいの規模の地震が起きるか」を正確に予測することはできません。しかし、地震予知の実現に向けて、世界中の研究者たちが様々なアプローチで研究を進めています。ここでは、未来の地震予知につながる可能性を秘めた最先端の研究分野を3つご紹介します。


4.1 地震発生サイクルの完全解明への挑戦

巨大地震は、プレートのひずみが蓄積し、限界に達して解放されるというサイクルを繰り返すことで発生します。この「地震発生サイクル」のメカニズムを完全に理解することが、長期的な地震予測の精度向上に不可欠です。

研究者たちは、過去の津波堆積物や古文書の記録から数百年、数千年間隔の地震履歴を調査する一方、高感度の観測網で現在のプレートの動きをリアルタイムで監視しています。これらのデータを、スーパーコンピュータ「富岳」などを活用した大規模なシミュレーションと組み合わせることで、これまで見えなかった複雑な地下の物理現象を再現し、次の巨大地震がいつ、どのような形で発生するのかをモデル化する研究が精力的に進められています。


4.2 観測ビッグデータとAI解析が拓く新たな可能性

日本全国には、高感度地震計やGNSS(GPS)をはじめとする無数の観測点が張り巡らされており、地殻の微細な動きに関する膨大なデータ(ビッグデータ)が24時間365日蓄積されています。このビッグデータを人工知能(AI)で解析し、地震の前兆となりうる未知のシグナルを発見しようという研究が注目されています。

人間の目では見逃してしまうようなわずかな変化や、複雑なデータの相関関係をAIが学習・分析することで、過去の大地震前に共通して現れる特有のパターンを検出し、予測モデルを構築できるのではないかと期待されています。これは、従来の物理モデルに基づくアプローチとは全く異なる、データ駆動型の新しい地震予測研究の潮流です。

観測技術

取得データ

AI解析による期待

高感度地震計

微小な揺れ、地中のノイズ

地震活動の異常パターンの検出

GNSS(GPS)

地殻の微細な動き(隆起・沈降)

プレートのひずみ蓄積状況のリアルタイム監視

海底観測網(S-netなど)

海底の地殻変動、水圧の変化

海溝型巨大地震の発生直前の現象捕捉


4.3 スロースリップ現象の研究と巨大地震との関連

「スロースリップ(ゆっくりすべり)」とは、通常の地震のように急激にプレートがすべるのではなく、数日から数年かけて人が感じないほどゆっくりとプレート境界がすべる現象です。この一見静かな現象が、巨大地震の引き金や発生時期に深く関わっている可能性が指摘されています。

スロースリップが発生すると、周辺のプレート境界にたまるひずみが変化し、巨大地震の発生を促進、あるいは逆に遅らせることがあると考えられています。特に南海トラフ地震の想定震源域では、このスロースリップが繰り返し観測されており、巨大地震発生の切迫度を評価する上で極めて重要な指標として研究が進められています。スロースリップの振る舞いを詳細に監視することで、中期的な地震活動の変化を捉える手がかりとなることが期待されます。


5. 地震予知に頼らずに命を守るための具体的な行動

現在の科学技術では、地震の発生を正確に予知することはできません。だからこそ、私たちは「いつ、どこで地震が起きてもおかしくない」という前提に立ち、日頃から具体的な備えをしておくことが何よりも重要です。ここでは、地震予知に頼らずに自分自身と大切な人の命を守るための具体的な行動を3つのステップで解説します。


5.1 ハザードマップで自宅や勤務先の災害リスクを確認する

まず最初に行うべきは、お住まいの地域や職場周辺に潜む災害リスクを正しく把握することです。そのために最も有効なツールが、各自治体が公開している「ハザードマップ」です。

ハザードマップを確認することで、地震そのものの揺れだけでなく、津波による浸水、土砂災害、河川の氾濫、液状化現象、火災の延焼といった二次災害のリスクを視覚的に理解できます。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」や、お住まいの市区町村のウェブサイトで誰でも簡単に入手・確認が可能です。

確認する際は、以下のポイントを意識しましょう。

  • 自宅や勤務地は、どのような災害の危険区域に含まれているか(津波浸水想定区域、土砂災害警戒区域など)

  • 最も近い避難場所や避難所はどこか

  • 避難場所までの安全な経路は複数あるか(途中に危険な場所はないか)

これらの情報を家族や職場の同僚と共有し、万が一の際の行動計画を話し合っておくことが、迅速で安全な避難につながります。


5.2 今すぐできる家具の固定と備蓄品の準備

災害リスクを把握したら、次は自宅や室内の安全対策です。特に、家具の転倒・落下・移動は、怪我の直接的な原因になるだけでなく、避難経路を塞いでしまう危険性があります。大きな地震では、室内にいる死傷者の3割から5割が家具類の転倒・落下によるものというデータもあり、対策は急務です。

背の高いタンスや本棚、食器棚、冷蔵庫、テレビなどは、L字金具や突っ張り棒、転倒防止ベルトなどを使って壁にしっかりと固定しましょう。また、ガラスには飛散防止フィルムを貼ることで、破片による怪我を防ぐことができます。

同時に、ライフラインが停止した場合に備えた備蓄品の準備も欠かせません。最低でも3日分、可能であれば1週間分を目安に、家族構成に合わせて必要なものを揃えましょう。普段から使っている食料品や日用品を少し多めに買っておき、使った分だけ買い足す「ローリングストック法」を実践すると、無理なく備蓄を維持できます。



最低限備えておきたい備蓄品リスト(大人1人・3日分目安)

分類

品目例

ポイント

食料・飲料水

飲料水(9リットル)、レトルトご飯、カップ麺、缶詰、お菓子など

アレルギー対応食や乳幼児用のミルク、ペットフードも忘れずに。

生活・衛生用品

簡易トイレ、トイレットペーパー、ティッシュ、ウェットティッシュ、歯ブラシ、生理用品

断水時に特に重要になります。簡易トイレは必須アイテムです。

情報・安全用品

携帯ラジオ、モバイルバッテリー、懐中電灯、乾電池、軍手、スリッパ

スマートフォンが使えない場合に備え、ラジオでの情報収集は重要です。

医薬品・貴重品

常備薬、救急セット、現金(小銭も)、身分証明書のコピー

お薬手帳のコピーも入れておくと、持病がある場合に役立ちます。


5.3 緊急地震速報が発表されたときの行動をシミュレーションする

緊急地震速報は、強い揺れが到達するまでのわずかな時間(数秒から数十秒)を知らせてくれる重要な情報です。この短い時間を有効に使うためには、速報を聞いた瞬間に、条件反射で安全確保行動がとれるようにしておくことが求められます。

日頃から、様々なシチュエーションを想定して「そのとき、どう動くか」をシミュレーションしておきましょう。

  • 屋内にいる場合:「まず低く、頭を守り、動かない」が基本です。丈夫な机やテーブルの下に隠れるか、物が落ちてこない・倒れてこない場所に移動し、クッションなどで頭を保護します。慌てて外に飛び出すのは危険です。

  • 屋外にいる場合:ブロック塀や自動販売機、ガラス窓などから離れ、カバンなどで頭を守りながら、落下物のない広い場所に移動します。

  • 乗り物(電車・バス)に乗っている場合:手すりやつり革にしっかりつかまります。自己判断で車外に出ず、乗務員の指示に従いましょう。

  • 自動車を運転している場合:ハザードランプを点灯させてゆっくりと減速し、道路の左側に停車します。揺れが収まるまで車内で待機し、避難が必要な場合はキーを付けたままドアをロックせずに離れます。

これらの行動を家族や職場で話し合い、定期的に防災訓練を行うことで、いざという時に冷静かつ迅速に行動できるようになります。


6. まとめ

現状の科学では地震の正確な予知は不可能です。地震発生のメカニズムは複雑で未解明な点が多いため、予知に頼らず日頃から防災対策を徹底することが、命を守る上で最も重要となります。

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