「ふぎゃー!!」現場に響いた謎の声の正体とは・・・?
- sinsirokeibi
- 3 日前
- 読了時間: 3分

とても暖かい、ある晴れた2月のことだった。
冬の終わりを感じさせる柔らかな日差しが、静かな住宅街を包んでいた。交通量の少ない田舎の現場。家がぽつぽつと並び、遠くで犬が吠える声が時折聞こえるくらいの、のんびりとした空気が流れている。
交通誘導警備員にとって、こういう現場は少し特別だ。
車の流れに神経を張りつつも、どこか季節を感じられる。春の気配を吸い込みながら、「今日は穏やかな一日になりそうだな」と、気分よく立っていたその時だった。
聞いたことのない声
突然。
「ふぎゃー!!」
現場に響き渡る、聞いたことのない叫び声。
思わず背筋が伸びた。
事故か?バケット車で何かトラブルでも起きたのだろうか。
反射的に視線を作業車へ向ける。しかし、作業員たちはいつも通り。特に慌てる様子もない。
おかしい。
では今の声は――?
周囲を見渡した、その瞬間だった。
春の風と白い綿
ふわり、と風が吹いた。
同時に、白い綿のようなものが空中を舞い始める。
雪?いや違う。タンポポの綿毛にしては大きすぎる。
白い毛玉のようなものが、ひらひらと道路を横切っていく。
「……なんだ?」
綿が飛んできた方向へ、ゆっくり視線を移す。
そして、すべてを理解した。
死闘
そこには――
2匹の猫の死闘があった。
「ふぎゃー!!」
うめき声をあげながら、白い猫が必死に抵抗している。その上に覆いかぶさるのは、いかにも場数を踏んできた風格のどら猫。
前足が交差し、毛が舞い、低いうなり声が響く。
先ほど空を舞っていた白い綿の正体は、どうやらこの戦いの副産物らしい。
白猫は逃げようともがく。どら猫は離すまいと食らいつく。
住宅街の静かな昼下がりに、不釣り合いなほど激しい攻防だった。
勝者なき決着
数秒――いや、体感ではもっと長かったかもしれない。
ついに白猫がするりと体を抜いた。
解放。
白猫は一瞬こちらを見た気がしたあと、何事もなかったかのように、すたすたと歩き去っていく。
走らない。慌てない。ただ静かに去る。
その背中には妙な貫禄があった。
残されたどら猫は、しばらくその場に立ち尽くす。
そして心なしか悲しそうな表情で、ゆっくりと白猫の後を追い始めた。
2匹がどこへ向かったのか、誰も知らない。
現場に残ったのは、春風に揺れる白いふわふわした毛だけだった。
後日談(というか30分後)
それから約30分後。
再び、あの声が響いた。
「ふぎゃー!!」
……まただ。
今度はさっきとは別の方向。
嫌な予感しかしない。
声のした方を見ると――
案の定、先ほどの白猫が、今度は別の猫に襲われていた。
どうやら縄張り争いではない。
これはもう、別の理由だろう。
思わず心の中でつぶやいた。
「モテる猫はつらいぜ。」
現場には、思いがけない物語がある
交通誘導の仕事は、単調に見えるかもしれない。
けれど実際には、毎日違う景色があり、予想もしない出来事が起きる。
人の生活のすぐ隣に立つ仕事だからこそ、季節の移ろいも、町の空気も、そして猫たちのドラマさえも目に入ってくる。
あの日の現場で一番忙しかったのは、きっと車でも作業員でもなく――
恋に生きる一匹の白猫だったのかもしれない。
春は、もうすぐそこまで来ている。
そしてどこかでまた、「ふぎゃー!!」という声が響いているのだろう。



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