「信じる道を貫く勇気 ― 大谷翔平と山本由伸に学ぶ、安全教育と人の育て方」
- sinsirokeibi
- 4 日前
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現場の安全教育をしていると、つくづく感じることがあります。それは「人は、自分で考え、納得したときにこそ本当に成長する」ということです。
この原則を体現しているのが、いま世界で活躍する二人の野球選手――大谷翔平と山本由伸です。彼らはそれぞれ異なるタイプの選手でありながら、教育や指導の本質を示してくれる“理想の学び手”でもあります。
そして、その歩み方は、私たち警備・安全の現場での「教え方」「育て方」にも、驚くほど多くの示唆を与えてくれます。
■ 常識を疑う勇気 ― 大谷翔平の「考える力」
大谷翔平選手は、岩手の花巻東高校時代からすでに頭ひとつ抜けた存在でした。しかし、ただの天才では終わりませんでした。彼の強みは、「自分の頭で考える習慣」を早くから身につけていたことです。
高校時代に作った「目標達成シート」は有名です。真ん中に「ドラフト1位・8球団」と書き、その周りに「体力」「人間性」「運」「礼儀」「挨拶」「食事」など、必要な要素を細かく書き出していました。これは単なる努力表ではなく、「目的に対して自分は何をすべきか」を自分の頭で整理する訓練だったのです。
当時はまだ、そんな分析的な考え方をする高校球児は珍しく、「小難しいことを考えても意味がない」と否定的な声もあったといいます。それでも彼は、自分の方法を信じました。その延長線上に、「二刀流」という前例のない挑戦がありました。
周囲の多くは反対しました。「投手と打者の両立なんて無理だ」「どちらかに専念すべきだ」と。しかし大谷選手は、自分の考えを貫きました。結果はご存じの通り。彼は前例を“新しい常識”に変えてしまいました。
■ 型を超える信念 ― 山本由伸の「納得して動く力」
一方、山本由伸投手は、まさに“職人タイプ”の選手です。彼のフォームは独特で、他の投手が真似できないものです。育成の途中で「もっとオーソドックスにした方がいい」と言われたこともあったそうです。しかし彼は、ただ反発するのではなく、**「なぜ直すのか」**を自分の頭で考えました。
「自分が投げやすいフォームとは何か」「指導者が言う改善点は、何を目的にしているのか」
彼は、それを理解した上で必要な部分だけを取り入れ、不要な部分は排除しました。つまり、“言われた通りにやる”のではなく、“意味を理解して自分の中に落とし込む”という姿勢を貫いたのです。
その結果、独自のスタイルを磨き上げ、今では世界トップクラスの投手としてメジャーリーグで投げています。
■ 「初めてのこと」は、必ず否定される
この二人に共通しているのは、**「初めてのことを恐れなかった」**という点です。歴史を変える挑戦は、いつも最初は否定されるものです。
「そんなやり方で通用するわけがない」「もっと普通にやれ」
これらの言葉は、挑戦者に必ず投げかけられるものです。しかし、彼らはそれを“敵”と捉えませんでした。むしろ、自分の考えを磨くチャンスとして受け止めていたのです。
■ 現場教育に通じる「自分で考える力」
ここから、私たちの現場にも通じる話があります。
安全教育では、「こういうときはこうする」といった“型”を教えることが欠かせません。それ自体は大切です。しかし、現場は常に変化しています。マニュアルにない状況が次々と起こります。
そのとき、自分の頭で考えられる警備員がいるかどうかが、事故を防ぐ分かれ道になります。
指導者が「やれ」と言ったからやるのではなく、「なぜこの行動が必要なのか」を理解して動ける人。そういう人材を育てるためには、単に正解を教えるだけでは足りません。
大谷翔平のように、自分の目標を自分の言葉で語れるようになること。山本由伸のように、指導内容を自分の感覚と照らし合わせて納得して動けること。この“自分で考える教育”こそ、現場の安全文化を育てる鍵になるのです。
■ 「教える」より「信じる」ことの難しさ
指導する立場に立つと、つい「正しいやり方を伝えなければ」と思ってしまいます。もちろん、基本や安全基準を守らせることは最優先です。ただ、それに加えてもう一つ大事なのは、**“信じて見守る勇気”**です。
部下が自分なりの工夫をしようとしたとき、最初は違和感を覚えるかもしれません。「そんな方法は危ない」「勝手なことをするな」と言いたくなることもあるでしょう。
けれども、否定から始まる教育は、考える力を奪ってしまいます。本人が試し、考え、反省する過程を奪えば、表面上は従順でも“受け身な人”しか育ちません。
大谷や山本のような「自立した選手」は、最初からすべてを教え込まれたわけではありません。彼らを育てた指導者たちは、「信じる」ことを恐れなかったのです。結果的に、それが選手の可能性を最大限に引き出しました。
■ 警備の現場で求められる「信念の教育」
警備の世界でも、状況判断や臨機応変な対応が求められます。「車が思わぬ方向から入ってきた」「歩行者が急に横断してきた」そんなとき、指示を待つのではなく、その場で“安全最優先の判断”を下せるかどうかが重要です。
そのためには、上からの指示を受けるだけの教育では不十分です。日頃から「なぜこの動作が必要なのか」「どうすればより安全か」を自分で考えさせる教育が必要です。
現場教育とは、“動きを覚えさせること”ではなく、“考え方を育てること”です。その土台があれば、たとえマニュアルにない事態が起きても、現場は混乱しません。
「自分の信じる正しい行動」をとれる人材が増えること。それが、安全文化の成熟であり、チーム全体の信頼を生むことにつながります。
■ 指導者もまた「学び手」である
最後に、もう一つ忘れてはいけないことがあります。それは、「指導者もまた学び続ける存在である」ということです。
大谷選手や山本投手の指導者たちは、彼らに“自分の理想”を押しつけませんでした。むしろ、彼らの意見に耳を傾け、一緒に考えました。
安全教育でも同じです。若い隊員が新しいやり方を提案してきたとき、すぐに「それは違う」と切り捨てず、「なぜそう考えた?」と聞いてみる。その対話の中に、現場を進化させるヒントが隠れているかもしれません。
教育とは、上から下へ知識を流すことではなく、お互いに磨き合う関係を築くこと。それが結果的に、現場の安全を守る一番の力になります。
■ 終わりに ― 否定を恐れず、信じる力を育てよう
大谷翔平と山本由伸。二人の成功の裏には、共通して「信念」と「思考力」があります。そして、その力は、彼らを支えた指導者との信頼関係の中で育まれました。
警備や安全の現場でも、同じことが言えます。「初めてのこと」は、最初は理解されにくいものです。けれども、それを恐れずに挑戦し、自分で考え抜く人こそ、真のプロになっていきます。
指導する側も、教えられる側も、お互いを信じること。その信頼が、現場をより安全で、より強いチームに変えていくのです。



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